遺言は「ゆいごん」と読んだり「いごん」と言ったりします。正式な呼称はどちらなのか、気になる方もいるでしょう。結論としては「ゆいごん」も「いごん」も正しい言葉ですが、それぞれ適切なシーンが異なるのです。
民法上の法的な効果を示すときは「いごん」、それ以外の一般的な会話では「ゆいごん」と使い分けます。今回は遺言の正しい読み方や、遺言書を遺す際の3つの形式について紹介します。
普段は意識せずに使われがちな遺言という言葉の正しい使い方が分かるので、ぜひご一読ください。
遺言とは
遺言の法的な解釈は、人が自らの死後に効力を生じさせる目的で行う単独の意思表示です。より分かりやすくいえば、死んだ後に自らの財産を誰に引き継がせるか、書き記したものとなります。
相続のやり方を決めるために作られる文書ともいえるでしょう。相続のルールは民法の中で、相続人の範囲や順位、各人の相続割合がこと細かに規定されています。
適切な方式で書かれた遺言は、民法に優先して適用されます。つまり遺言が書かれていればその内容が、遺言が作成されていない場合は民法の規定に従い、相続が行われるということです。
基本的には遺言の内容が尊重されますが、個人の意思に一任すると不公平な遺産分割がなされるリスクもあります。法定相続人の取り分(遺留分)を確保するために、遺留分侵害額請求権が存在します。
遺留分の範囲を侵害する相続を指示する遺言が書かれた場合でも、その相続人は遺留分に相当する財産は確保できるのです。
遺言の正しい読み方
遺言には「ゆいごん」と「いごん」の2種類の読み方が存在します。どちらで読んでも間違っているわけではありませんが、状況や場面に応じて適切な読み方は異なります。
一般的に使われるのは「ゆいごん」
家族や大切な人に対して死ぬ前に遺す言葉という意味で使われる場合、「ゆいごん」と読まれます。
法律や相続に関わる仕事をしていない人が、日常生活の中で遺言の話をするときは「ゆいごん」と読むといえるでしょう。相続の発生と関係がない状況であれば、幅広いケースで「ゆいごん」が使われます。
「ゆいごん」と呼ばれる遺言では民法上の法的な効果は生じないため、娘に向かって口頭で残した言葉やビデオレター、結婚式のメッセージなど、どのような形式でもOKです。
法律上の効力があるのは「いごん」
法律上の効力を示す意味や、民法で定める形式に則った遺言書を指す場合は「いごん」と読まれます。「いごん」は法的な効果が発生するので、「ゆいごん」よりも使われる範囲が狭い言葉です。
司法書士や行政書士などの実務家が、仕事で遺言を示すときは「いごん」です。記載したとおりに相続の効果を発生させたければ、民法で定められた形式による「いごん」を作成する必要があります。
密室での伝言やメールのような、民法のルールから外れている「ゆいごん」は法的な効果がなく、後の混乱の原因になるので注意しましょう。
遺言を残す時には形式に注意!
遺言の形式は民法で細かく規定されており、ルールに従わない遺言書はきちんとした内容が書かれていても、無効になってしまいます。
民法で認められた遺言の形式は、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言です。こちらでは、3つの種類に関する特徴やメリット・デメリットを解説します。
自筆証書遺言
自筆証書遺言はその名のとおり、本人の自筆によって書かれた遺言です。遺言は別紙を除き全て自筆しなければならず、パソコンで作成された場合、本人がうち込んだ文書だとしても無効です。
加筆や訂正のルールも厳しく、民法の規定に適合していない箇所があれば、該当の部分が無効になります。遺言を作成するのは高齢者の方なので、負担が大きい自筆証書遺言の作成は体力的に厳しい作業です。
公正証書遺言
公正証書遺言とは公証人のチェックを受け内容に問題ないと証明された後に、公正証書役場で保存される遺言を指します。遺言を作成するのは弁護士や司法書士などの専門家なので、本人の負担は少なく済みます。
改ざんリスクがなく証拠能力も高いため、実務ではよく作成される形式です。ただし公証役場に対して手数料を支払う必要があります。また公証人の他に、2人の証人から内容の確認を受けなくてはなりません。
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、自分以外の誰にも内容を知られずに遺言を作成する方法です。秘密にできるのは内容だけで、公証役場へ遺言の存在を届け出る必要があります。
秘密証書遺言は、実務上はあまり使用される方法ではありません。遺言は自宅で保管するので、紛失や改ざんに対する注意が必要です。
まとめ
遺言は一般的には「ゆいごん」、法律上の効果を示す文脈では「いごん」と読まれます。法律や相続が関係する場合は読み方が変わるので、読み方のルールを事前に頭に入れておきましょう。
また「いごん」は、民法で定めた形式に則って作成する必要があります。ルールを外れた遺言は無効になってしまうので、作成の際は専門家への相談を推奨します。