物事には期限があるものです。たとえば、犯罪が起こったとわかった後に、いつまでも犯人を捜査し続けるわけには行きません。だからこそ、犯罪には時効というものが設けられています。これと同じように、実は相続にもさまざまな形で時効が設けられているのです。
今回は、相続放棄がいつまで許されているのか、あるいは相続税の申告はいつまですべきなのかといった相続にまつわる時効について解説していきます。
相続放棄はいつまでできる?
一般的に、遺産を相続するとプラスのイメージを思い浮かべがちです。たとえば、亡くなった方がなんらかの事業で一財を成し、子どもたちに遺産を譲るといったケースは多いです。
もちろん、そういったプラスの遺産を引き継ぐケースが大半なのですが、相続する際は実はマイナスの遺産にも気を付けなくてはいけません。仮に亡くなった方がなんらかの形で借金をしていたとしましょう。
生前のうちに借金を返しきれなかったとしたら、残った負債は誰が返さなければいけないのでしょうか。実は、これは相続者の役割なのです。つまり、遺産を相続するといっても、プラスの遺産だけでなくマイナスの遺産も加味しなければいけません。
もちろん、プラスの遺産が借金よりも多い場合や借金が十分返せる額だったらそこまでダメージにはならないでしょう。とはいえ、亡くなった方が莫大な借金を負っていたので返せそうにないというケースも十分に考えられます。
そういった場合は相続放棄という選択肢が残されています。相続放棄さえすれば借金を返す必要はないのですが、実は相続放棄をするにも時効があるのです。相続放棄は亡くなった方に借金があるとわかってから3ヶ月以内に手続きを行わなくてはいけません。
3ヶ月を過ぎたら時効が成立するので、後は借金を相続したうえで別の手続きを進めなければいけなくなるのでくれぐれも注意しましょう。
相続税の申告にも時効がある?
亡くなった方から相続した財産は、すべて相続者のものとなるわけではありません。そのうち一定の額は相続税として国に納める必要があります。
そして、この相続税はいつ納めても大丈夫というわけではありません。
相続人には、被相続人が死亡後、10ヶ月以内に相続税を納める義務があるのです。もしもこれを過ぎてしまったら、相続税のほかに過料金を余計に払う可能性があるので注意しましょう。もっとも、相続税にも時効がないというわけではありません。
実は、日本では被相続人が亡くなった後、5年10ヶ月経ったら時効が成立し、以降の相続税は申告しなくていいという制度があります。たとえば、被相続人が亡くなった後に一通り財産目録を作り、そのうえで相続税を納めたとしましょう。
しかし、6年後に新たに被相続人に財産があるとわかったとします。この場合は、その分の相続税を申告する必要はありません。相続税の申告時効は、あくまでも被相続人が亡くなったとわかった後からスタートするのであって、財産があるとわかった時点をスタートとするわけではないからです。
ただ、だからといって相続税を払うのが嫌だから5年10ヶ月経つのを待つというのは現実的ではありません。国税庁の捜査は念入りに行われますし、場合によっては時効が延びる可能性もあるからです。
実は、時効の規定には続きがあり、申告漏れに悪意があるとみなされた場合は時効を7年10ヶ月に延長できるという制度があります。もしここで時効が成立していないとみなされたら、延滞税や加算税が課せられてしまうので、あくまでも正直に相続税は申告したほうが良いでしょう。
不平等な遺産相続はいつまでやり直せる?
遺産相続をする人が複数人いるとトラブルが絶えません。仮に遺言状があればトラブルは少なく済むのですが、遺言状がないとトラブルは起きやすくなってしまいます。
お金にまつわることですからついつい熱くなってしまいがちですが、そういった時はあくまで法律に従って冷静に話を進めるべきです。とはいえ、時には不平等な遺産分割が起きてしまうケースもあるのでしょう。
たとえば、夫が亡くなり、相続人が妻と子ども2人がいたとします。法律的には配偶者が遺産の2分の1、残りの2分の1を子どもたちが分割すると決められています。しかし、妻のいないところで勝手に遺産分割協議が進み、3人で3分の1ずつ遺産が分割されたとしましょう。
妻は本来2分の1をもらえるはずだったのに3分の1しかもらえなかったら、これは遺留分侵害と言います。この時、妻には本来もらえるはずだった2分の1分の遺産を子どもたちに請求できる権利があります。
これを遺留分侵害請求というのですが、実はこれにも時効があります。遺留分侵害請求は、被相続人が亡くなってから1年以内に行わなければいけません。これを超えたら以下に不平等な相続といえど、やり直すことはできなくなるのでくれぐれも気を付けましょう。
遺産分割協議に時効はあるの?
ここまで、さまざまな相続に関する時効について見てきました。一方で、相続にあたって時効がない行為も存在します。それは遺産分割協議です。
遺産を分割するにあたっては、ある程度相続人同士の話し合いが必須です。
とはいえ、場合によってはなかなか時間が取れないので、協議をしている暇がないということもあるでしょう。ようやく暇ができたので、腰を据えて遺産分割協議をやるとなった時、時効があるので分割協議はできないとなったらたまったものではありません。
そのため、遺産分割の協議をすること自体に時効は設けられていません。これと同様に、遺産分割協議のやり直しの要求にも時効はないです。忙しいあまり遺産分割協議をあいまいにやり過ごしてしまったけれど、後々考えてみるとやっぱり納得できないところがあるからもう一度協議をしたいというケースはあるでしょう。
それが、仮に5年後でも10年後でも改めて協議を開くことはできます。遺産分割協議をやり直すためには、すべての相続人の合意が欠かせません。ただ、すべての相続人の合意がなくても分割協議を取り消すことは可能です。
この場合は、時効があって5年以内に取り消し要求を行わなくてはいけません。また、取り消し要求を行えるのは、協議中に相続人がほかの相続人に対して虚偽の情報を伝えたり、恐喝したりといったケースに限られます。
たとえば、遺産がもっとあったにもかかわらず、少ない額をほかの相続人に伝えた場合は、遺産協議を取り消すことができるのです。
相続権の回復に関する時効
被相続人が亡くなった後に遺言状が見つからないというケースは珍しくありません。そのため、実は相続人になれるはずだったのに遺産を相続できなかったという事例も稀に起こり得ます。
たとえば、被相続人が生前不倫をしていて、相手との間に認知しないままでいる子どもがいたとしましょう。被相続人はそのことを負い目に感じており、遺言状にその子どもを認知して、遺産を一定額渡すという文言を記したとします。
しかしながら、遺言状は遺族に見つからなかったので、規定通り配偶者と子どもで遺産を分けました。そして、亡くなった数年後に遺言状が見つかり、相続人になるはずだった子どもがいたとわかったとしましょう。
もちろん、相続人がほかにもいるとわかったら遺族はその子どもにその旨を伝えなければいけません。こうなれば、新たに認知された子供は相続回復請求権を得ます。
ただ、相続回復請求権を行使できるのは5年までです。上のケースで言えば、遺言状が見つかり、その旨を遺族から伝えられた時点から5年以内に相続回復請求を行わなくてはいけません。また、相続回復請求権があったと知らなかった場合は、20年が時効とされています。
銀行から預金を引き出す際にも時効があるので注意
遺産相続をする時、重要になるのが銀行口座からの引き出しです。おそらく、ほとんどの人は財産を銀行口座に収めているはずでしょう。このほかにも、不動産などさまざまな財産はありますが、基本的には銀行口座に残ったお金が財産分与の対象になるはずです。
もっとも、日本の銀行には口座名義人の死亡が確認された時点で口座を凍結するという決まりがあります。そのため、遺産を引き出すためには銀行で手続きをしないと預金は引き出せません。
仮に、銀行口座の通帳の在処などがわかっている場合や被相続人がどこに口座を作っているかなどを生前のうちに教えていれば話はスムーズに進みます。とはいえ、場合によっては被相続人が口座を作っていると知らないままでいるというケースもあるでしょう。
葬儀が終わってからしばらくして遺品を整理していると、銀行の預金通帳が見つかったという話も珍しくありません。この場合、相続人が銀行に向けて預金の引き出しを請求する時効は5年と定められています。
もしも預金を引き出していない銀行口座があると判明したら、すぐに手続きを行うようにしましょう。とはいえ、銀行は役所などと違って民間機関ですから、仮に時効が過ぎていたとしても融通を利かせてくれる可能性があります。
たとえば、被相続人が亡くなってから6年後に預金通帳が見つかったから時効だと諦めず、一度銀行に相談してみるといいでしょう。
今までは相続登記には時効がなかったけれど……
相続の対象となるのはお金や物品だけではありません。土地や家、マンションなども相続対象となります。こういった不動産は、被相続人が亡くなった後に必ず相続人の名義に変更しなくてはいけません。
これを相続登記というのですが、これまで相続登記には時効がありませんでした。もちろん、現実的には相続登記を行っておいたほうがメリットがあるので、ほとんどの人は被相続人が亡くなった後に相続登記を行っていますが、相続登記をする時期自体はいつでも良かったのです。
ただ、2024年4月からは法律が改正されました。相続登記に3年以内の申請義務期間が設けられたのです。仮に3年以内に相続登記を行わなければ過料金を課せられるので、これからは速やかに申請手続きを進めなくてはいけません。
ちなみに、この申請義務については、過去の相続分も対象となります。たとえば、被相続人が2023年に亡くなり、その土地を相続人が相続したとしましょう。法改正が行われたのは2024年だから、その前の土地の相続分は申請義務の対象にならないとは限りません。
もっとも、2026年までに申請しなければいけないというわけではなく、過去の相続分については猶予期間として2027年3月まで期限が設けられています。これまで申請義務がなかったからといって、相続登記を放っておいている人はくれぐれも注意するようにしましょう。
まとめ
今回は、いくつかの相続にまつわる時効についてご紹介してきました。ただでさえ相続の手続きは大変ですが、こういった時効を覚えるのも大変でしょう。
さらに、遺産分割協議を進めるにあたってトラブルが起きた時、これは時効の対象になるのだろうかといったケースも出てくるはずです。もしこういったトラブルが起きたので自分で調べてみたはいいものの、果たして時効の対象になるのかわからないという時は、弁護士や行政書士などといった法律に詳しいプロに相談しに行くのが無難でしょう。