「もしものとき、家族に迷惑をかけたくない」──そう考えたとき、まず頭に浮かぶのが「遺言書」です。
でもいざ準備しようとすると、「そもそもいくらかかるの?」「どの種類が自分に合っているの?」と悩んでしまう方も多いのではないでしょうか。
この記事では、遺言書の作成にかかる費用について、自筆証書・公正証書・信託銀行・専門家への依頼など、選択肢ごとにわかりやすく解説します。費用の相場はもちろん、トラブルを避けるための注意点や、安心して備えるためのヒントもご紹介。
「お金をかけすぎずに、でもきちんと想いをのこしたい」。
そんなあなたの不安を解消し、一歩を踏み出すための参考になる記事を目指しました。
遺言書の費用はどのくらいかかる?基本の考え方を押さえよう
遺言書を作ろうと思ったとき、最初に気になるのが「費用はどれくらいかかるのか?」という点ではないでしょうか。実は、遺言書の種類や作成方法によって、その費用は大きく異なります。
また、作成時だけでなく、保管や執行の段階でも別途費用が発生することがあるため、全体の流れと金額の目安を知っておくことが大切です。ここではまず、遺言書の基本的な種類と、それぞれにかかる費用の違い、さらに費用が発生するタイミングについて整理していきます。
遺言書の種類と費用の違い
遺言書には主に「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。それぞれ作成方法や効力、費用に大きな違いがあります。
自筆証書遺言は、自分の手で書いて作成する方法です。紙とペンがあればすぐに始められ、費用もかかりません。もっとも気軽に作れる方法ですが、法的要件を満たしていないと無効になるリスクがあり、紛失や改ざんの不安もあります。
公正証書遺言は、公証人が関与して作成する信頼性の高い方法です。証人2人の立ち会いが必要で、内容を口述し、公証人が文書を作成します。費用は相続財産の金額に応じて変動しますが、一般的に5万〜15万円程度が相場です。検認の手続きが不要で、安心感が高いのが特徴です。
秘密証書遺言は、自分で作成した遺言書を封筒に入れて封印し、公証人に存在だけを証明してもらう方法です。費用は定額で1万1,000円程度ですが、家庭裁判所の検認が必要になるため、実務ではあまり使われていません。
どの方法が適しているかは、財産の内容や家族構成、トラブルの可能性などによって異なります。費用の安さだけで選ばず、将来的な安心感とのバランスも考えましょう。
費用が発生するタイミングと内訳とは
遺言書の費用は、「作成」「保管」「変更」「執行」の各段階で発生する可能性があります。費用の全体像をあらかじめ把握しておくことで、後々の想定外の出費を避けることができます。
1. 作成時の費用
自筆証書遺言は原則無料ですが、公正証書遺言では財産の額に応じた手数料が必要です。たとえば相続財産が3,000万円の場合、作成費用は10万円前後が目安となります。専門家に依頼する場合は、さらに報酬(5万〜20万円前後)がかかります。
2. 保管に関する費用
法務局の自筆証書遺言保管制度を利用する場合は、1通あたり3,900円。公証役場が保管する場合は追加費用はありませんが、信託銀行や専門家に預けると年間数千円〜1万円程度の保管料が発生する場合があります。
3. 変更時の費用
遺言書は一度作ったら終わりではなく、ライフステージに応じて書き直すこともあります。公正証書遺言の変更には再度公証人手数料がかかり、平均で5万〜10万円。信託銀行では「変更手数料」として約5万円前後が別途必要となるケースもあります。
4. 執行時の費用
遺言執行者を指定し、その人物が手続きを行う場合、執行報酬が発生します。信託銀行や専門家に依頼すると、相続財産の0.3〜2.2%前後が報酬の目安です。最低でも30万〜100万円程度の費用が必要となることが多いため、しっかり確認しておきましょう。
これらの費用は一律ではなく、依頼先や財産の規模によって変動します。「どこまで自分で行い、どこからプロに任せるか」を見極めることが、費用と安心感のバランスを保つコツです。
自筆証書遺言は安く済む?無料の落とし穴と保管制度の活用
「遺言書って、お金がかかりそうでハードルが高い…」と感じる方も多いのではないでしょうか。そんな中、自筆証書遺言は「無料で作れる」点が大きな魅力。しかし、費用をかけないことにはリスクも伴います。さらに、近年スタートした「遺言書保管制度」を活用することで、安全性や利便性を高めることも可能です。この章では、自筆証書遺言にかかる費用や注意点、そして保管制度の活用法について、丁寧に解説します。
自筆証書遺言の費用とメリット・デメリット
自筆証書遺言は、紙とペンがあれば誰でも作成でき、費用が一切かからないのが最大のメリットです。財産の内容が比較的シンプルで、すぐにでも遺言を残しておきたい方には、とても手軽な選択肢です。
【メリット】
・作成費用が無料
・自宅などでいつでも作成・変更が可能
・内容を自由に決めやすい
しかしながら、安さゆえの落とし穴も存在します。法律で定められた様式(全文の自筆、署名、日付の記載、押印など)を少しでも間違えると、遺言書そのものが無効になってしまうおそれがあります。また、遺言書を家の中に保管していた場合、紛失・改ざん・未発見のリスクがあるのも現実です。
さらに、相続発生後には家庭裁判所で「検認」という手続きが必要になり、その間、遺言の内容がすぐに実行できないという不便さもあります。こうしたデメリットをきちんと理解したうえで、自筆証書遺言を選ぶことが大切です。
法務局の遺言書保管制度とは?費用と利用条件
こうした自筆証書遺言の弱点を補う制度として、2020年7月から「自筆証書遺言書保管制度」がスタートしました。この制度では、自筆証書遺言を法務局に預けることで、安全に保管してもらえるだけでなく、いくつかの重要なメリットがあります。
【費用と仕組み】
・保管手数料:1通あたり3,900円(申請時に支払う)
・保管後は家庭裁判所での検認が不要
・遺言者の死後、相続人が「遺言書情報証明書」を取得できる
・原本の閲覧や証明書の交付申請も可能
利用するには、本人が法務局へ直接出向き、本人確認書類とともに申請する必要があります。あくまで「本人による持ち込み」が前提で、代理人申請や郵送はできません。
保管制度を活用することで、自筆証書遺言の信頼性が一気に高まり、遺言書の存在を確実に相続人へ伝えることも可能になります。「費用は抑えたいけれど、きちんと残したい」という方にとって、この制度は非常に心強い味方と言えるでしょう。
公正証書遺言の費用は高い?作成から執行までの詳細
「きちんとした遺言書を残したいけど、公正証書遺言って高くつくんでしょう?」と不安に思う方も多いかもしれません。確かに自筆に比べると費用はかかりますが、それに見合うだけのメリットと安心感があります。
この章では、公正証書遺言の費用の内訳や手数料の計算方法、さらに見落としがちな「証人」や「専門家」への報酬なども含めて、わかりやすくご紹介します。
公正証書遺言の作成にかかる費用と報酬体系
公正証書遺言の作成費用は、公証人に支払う「手数料」をベースに計算されます。これは「公証人手数料令」という政令で定められており、相続対象となる財産額に応じて段階的に加算されていく仕組みです。
たとえば、財産額が1,000万円以下なら手数料は11,000円+遺言加算(11,000円)で合計22,000円。財産が5,000万円の場合は、手数料約29,000円+加算で40,000円前後になるケースもあります。
また、遺言者が病気などで公証役場に行けない場合は、公証人に自宅や病院まで出張してもらうことも可能ですが、その場合は手数料が1.5倍となり、日当や交通費も別途必要になります。
「公正証書遺言は高い」という印象が先行しがちですが、法的に確実で、検認手続きが不要になるという利点を考えれば、決して無駄な出費ではありません。むしろ「トラブル防止の保険」として考える方も多いのです。
公証役場以外にかかる費用とは?証人・専門家報酬の目安
公正証書遺言には、公証人のほかに2人の証人が必要です。知人に頼めば費用はかかりませんが、適切な証人が身近にいない場合や、家族に内容を知られたくない場合などは、専門家に依頼することになります。
証人の依頼料は、一般的に1人あたり5,000円~10,000円程度が相場です。2人で1~2万円と見ておくと良いでしょう。
また、遺言書の内容を一から相談したい場合や、相続人調査・不動産調査なども含めてスムーズに進めたい場合は、弁護士や司法書士など専門家にサポートを依頼することも可能です。その場合のサポート費用は、5万~20万円程度が目安となります。
・作成内容のアドバイスや文案作成
・必要書類の収集代行
・公証人との打ち合わせの同行
・証人の手配
などを一括で任せられるため、安心して進められるという声も多いです。「忙しくて手続きに時間がかけられない」「書類の準備が不安」といった方にとっては、専門家の力を借りるのは心強い選択肢になるでしょう。
信託銀行に依頼する場合の費用比較
「せっかく遺言書を作るなら、最初から最後までプロに任せておきたい」——そんな方には、信託銀行による遺言信託サービスが選択肢になります。ただし、気になるのはやはりその費用。各行でプランや料金体系が異なり、内容も複雑に見えるかもしれません。
この章では、2025年時点で公開されている三井住友信託銀行・三菱UFJ信託銀行のサービスを例に、違いや注意点をわかりやすく整理します。
三井住友信託・三菱UFJ信託の料金体系とプランの違い(※2025年現在)
三井住友信託銀行と三菱UFJ信託銀行は、それぞれ複数の料金プランを用意しており、希望するサービス内容や費用のかけ方に応じて選べるのが特徴です。
三井住友信託銀行では、以下の3つのコースがあります:
・プランⅠ(基本手数料:33万円)
→年間保管料6,600円がかかるが、初期費用を抑えたい方向け
・プランⅡ(基本手数料:88万円)
→保管料が無料、遺言執行報酬も大幅割引される
・保管コース(基本手数料:55万円)
→執行は自分の家族などに任せたい方向けのシンプルプラン
一方、三菱UFJ信託銀行の「遺心伝心」サービスでは以下のような体系です:
・100万円型プラン(取扱手数料:110万円)
→遺言執行時の費用を大きく抑えられる
・30万円型プラン(取扱手数料:33万円)
→初期費用が安いが、執行時の最低報酬は165万円と高め
いずれの信託銀行も、遺言の内容の変更には一律55,000円の変更手数料が必要です。これらを比較すると、生前にどれだけ費用をかけて備えるか/亡くなった後の負担を軽くしておきたいかという考え方の違いが反映されるプラン設計になっています。
手数料や保管料、執行報酬の仕組みを理解する
信託銀行の費用は、「契約時」「保管中」「遺言執行時」の3段階に分かれており、それぞれに費用が発生します。
契約時(初期費用)
基本手数料が発生します。内容確認や契約書作成、公証人との調整費などが含まれます。
・保管中(年間費用)
三井住友信託のプランⅠ・保管コースでは年額6,600円の保管料が必要。プランⅡでは無料。三菱UFJ信託も年額5,500円の保管料があります(途中解約の返金制度あり)。
・遺言執行時(報酬)
遺言の執行に入ると、相続財産の額に応じた報酬が発生します。報酬率は金融資産とそれ以外の資産で異なり、概ね0.3%~2.2%の範囲です。最低報酬額は、三井住友信託がプランⅠで110万円/プランⅡで33万円、三菱UFJ信託が30万円型で165万円/100万円型で77万円と設定されています。
なお、これらに加えて不動産登記費用、税理士報酬、鑑定料などの実費が別途かかる点には注意が必要です。
「信託銀行に任せておけば安心」と感じる反面、費用構造はやや複雑。予算感と希望するサポート内容をすり合わせながら、無料相談などでしっかり比較検討することが大切です。
専門家に依頼する場合の相場と選び方
「自分では不安」「法的なチェックをしっかり受けたい」と考える方にとって、弁護士や司法書士などの専門家への依頼は有力な選択肢です。信託銀行に比べて自由度が高く、柔軟な対応が期待できる一方で、専門家によって費用や対応範囲に差がある点には注意が必要です。
この章では、代表的な専門家の費用感と、失敗しない選び方をわかりやすく整理します。
弁護士・司法書士・行政書士の費用比較
専門家に依頼する際の費用は、その専門家の資格と対応内容によって大きく異なります。以下に、主な専門家3種の費用感を比較してみましょう。
● 弁護士に依頼する場合
法的トラブルの予防や相続人同士の争いが予想されるケースでは、弁護士への依頼が安心です。
自筆証書遺言の作成:20万円〜40万円程度
公正証書遺言のサポート(公証人対応・証人立会含む):30万円〜50万円前後
相続財産の価額に応じて報酬が変動する場合もあります。
● 司法書士に依頼する場合
相続登記や不動産に関する知識に強く、費用も弁護士より抑えめです。
自筆証書遺言:2万5,000円〜4万円程度
公正証書遺言:5万円〜6万5,000円前後(証人費用込み)
● 行政書士に依頼する場合
内容の相談よりも「形式的に整った書類を用意したい」方に適しています。
自筆証書遺言:2万〜3万円程度
公正証書遺言:5万円前後
行政書士は「法的助言」を行えない点に注意が必要です。迷った場合は、初回相談が無料の事務所も多いため、まず話を聞いてみるのがおすすめです。
依頼先の選び方と失敗しないポイント
「誰に頼めばよいかわからない」と感じる方も多いはず。専門家を選ぶ際は、費用面だけでなく、相談内容の複雑さ・今後の見通し・信頼性などを踏まえて判断することが大切です。
選び方のポイント:
・相続人同士で揉めそうな場合 → 法的な対応ができる弁護士
・不動産が関係する場合 → 登記も含めて任せやすい司法書士
・内容が決まっていて形式だけ整えたい場合 → 費用の安い行政書士
また、次のような点にも注意しましょう。
料金体系が「明示されているか」
追加費用の発生条件(修正・相談回数など)は事前に確認
初回相談時の印象やレスポンスの早さ
遺言書の作成は人生の大事な節目です。「なんとなく安いから」ではなく、自分が納得して任せられる専門家を選ぶことが、安心感につながります。
費用を抑えながら確実に遺言書を残すには?
できるだけ費用は抑えつつも、「無効にならない確実な遺言書を作りたい」と考える方は多いもの。
特に老後の資金に不安がある場合や、相続財産がそれほど多くない場合は、費用対効果を重視した方法を選ぶことが重要です。この章では、自分でできる工夫と、トラブルを防ぐためのチェックポイントをご紹介します。
自分で作る+専門家にチェックしてもらう方法
費用を最小限に抑えたいなら、まずは自筆証書遺言の作成から検討するのがおすすめです。自筆証書遺言は基本的に費用がかからず、自宅でいつでも作成・修正が可能です。
ただし、法的な様式に不備があると無効になるリスクがあるため、完成後は専門家にチェックだけ依頼するというハイブリッド方式が有効です。
この方法なら、
作成費:0円(自筆)
専門家によるチェック:数千円〜数万円
と、低コストで実効性の高い遺言書を残すことができます。
また、法務局の保管制度(1通3,900円)を利用すれば、紛失や改ざんの心配も減り、家庭裁判所での「検認」が不要になるというメリットもあります。
節約しつつ、安心も確保できる現実的な選択肢として、多くの方に検討いただきたい方法です。
トラブル回避のために知っておきたい注意点
費用面を重視しても、肝心の遺言書が原因で家族間の争いを引き起こすようでは本末転倒です。そこで、以下のような点に注意して遺言書を作成・管理しましょう。
● 曖昧な表現を避ける
「長男に不動産を相続させる」と書いても、どの不動産か特定できない場合は無効となる可能性があります。土地の地番や不動産登記情報などを具体的に明記しましょう。
● 遺留分に配慮する
兄弟姉妹以外の法定相続人には**遺留分(最低限の相続権)**があります。これを侵害すると、相続後に「遺留分侵害額請求」を受け、かえって争いを招く恐れがあります。
● 最新の状況に合わせて見直す
家族構成や財産状況は年月とともに変化します。5年に1度は内容を見直すことで、常に有効な状態を保つことができます。
● 相続人に存在を知らせる
せっかく作成しても、誰にも知られずに終わってしまっては意味がありません。信頼できる家族や専門家に「遺言書がある」ことを伝えておくと安心です。
まとめ:費用を把握して、自分に合った遺言書を準備しよう
遺言書の作成にかかる費用は、「どの種類を選ぶか」「誰に依頼するか」によって大きく異なります。自筆証書遺言であれば数千円で済むこともありますが、公正証書遺言や信託銀行への依頼では数十万円の費用がかかるケースもあります。
ただし、費用を抑えることばかりに気を取られて、法的に無効な遺言書を残してしまっては意味がありません。将来の安心や家族のためにも、「費用」と「確実性」のバランスを考えながら、今のうちに準備を進めておきましょう。
どの方法を選ぶにせよ、「備えておく」ことが一番の安心につながります。
わからないことがあれば専門家に相談しながら、納得のいくかたちで遺言書を整えてください。