2007年に施行された改正信託法により、新しい財産管理の方法として、家族信託が注目されています。成年後見制度や遺言よりも、身近で柔軟な仕組みである点がその理由です。しかしながら、家族信託は新しい制度のため、利用したい場合はどこに頼むものなのか、一般にはあまり浸透していません。
この記事では、家族信託を頼める依頼先や、依頼の流れ、依頼先を選ぶときのポイントを紹介します。
家族信託を頼む前に目的を明確にしておくこと
家族信託を検討する際に、まず何を目的として家族信託を行うかを家族間で明確にするのが第一です。
家族信託で財産管理を行う背景事情は、認知症対策や遺言代用、障害のある子どものための財産管理と生活費の支給、二次相続・三次相続も指定したいなど、委託者それぞれで事情が異なります。
家族には、何のために家族信託を行うか、実際どのようなメリットやデメリットがあるのかなどを説明して、理解が得られるよう努めましょう。目的を共有せずに単独で専門家に依頼を進めた場合、のちのち家族との間でトラブルが発生するリスクがあります。
家族信託の30年ルール
家族信託の制度を利用する際に踏まえておく必要があるのが、30年ルールです。
家族信託では、例えば自分(第一受益者)の死後は子(第二受益者)へ、子の次は孫(第三受益者)へと、第三受益者まで指定できます。しかし、この相続関係は永遠に有効なわけではありません。
信託法91条の定めによると、家族信託は、信託契約締結から30年経過したときの受益者か、その次の受益者が死亡すると終了とされています。
例えば親、子、そして孫の三者を受益者とする場合、契約締結から30年が経過した時点で、受益者(子)がその後死亡したら、次の受益者(孫)へと移ります。この孫が、家族信託での最後の受益者となります。
家族信託を頼める専門家
いざ家族信託を始めるとなった場合、専門的な対応が求められる部分もあります。したがって、法務の専門家である弁護士や司法書士、行政書士、あるいは税理士に依頼するのが一般的です。
ただし、同じ士業でも対応可能な範囲や強みが異なります。以下に紹介するそれぞれの特徴を参考にしてください。
弁護士
弁護士には、家族信託に必要な書類の作成や手続きのすべてを任せられます。相談や依頼だけではなく、相続でもめて裁判になる場合も含めて、すべての法的な問題に対応してもらえるのは、弁護士の大きな強みです。
ただし、ほぼすべてのことを任せられる分、他の士業に比べて費用が高額です。また、現状では相続を専門とする弁護士は決して多くありません。
そのため、例えば、家族信託は司法書士や行政書士など他の士業に依頼し、万が一裁判になった時点で弁護士を依頼する方法もあります。
司法書士
街の法律家である司法書士は、家族信託のもっとも一般的な依頼先です。不動産登記、商業登記、相続、成年後見などは、特に司法書士の得意とする分野です。
相続を専門としている司法書士も多く、家族信託に関する知識や経験、ネットワークは頼りになるでしょう。費用が弁護士よりも安いのも、司法書士の依頼先としての強みです。
一方、万が一裁判沙汰に発展した場合、司法書士では対応に限界があるため、別途弁護士に依頼する必要があります。
行政書士
行政書士も、家族信託の手続きに必要な書類の作成が可能で、弁護士や行政書士と比較すると費用が安いのも大きなメリットです。
ただし、行政書士はあくまで行政手続きが専門で、弁護士や司法書士のような法律家ではないため、代理人にはなれません。そのため、法務局への書類提出は、依頼主が自分で行う必要があります。
また、相続を専門とする行政書士は少ないため、司法書士に比べて依頼先の選択肢は限られます。
税理士
税理士も家族信託の依頼先の1つです。実際に相続を専門としている税理士や、家族信託を依頼できる税理士事務所もあります。
税理士は税の専門家なので、相続税と密接に関わる家族信託の依頼先として検討できます。
ただし、税理士に依頼しても、不動産登記は税理士の専門外なので、司法書士が行うことになります。したがって、弁理士を依頼先として検討する際は、最初から司法書士にすべて頼んだ方が早い点も念頭に置いておきましょう。
家族信託の依頼の流れ
いざ専門家に家族信託を依頼するにしても、実際にどのような流れで手続きを進めるかを、事前に把握しておく必要があります。
一例として、「親の財産を子が管理する」という内容で、家族信託を司法書士に依頼するケースを解説します。
司法書士への依頼
家族信託を依頼するには、事前に親子や家族間で合意が形成されているのが前提となります。その合意内容に沿ってプランを選ぶ必要があるため、まずは家族に事前に相談をしましょう。
信託に関わる人も含めて家族間での話し合いの場を設け、家族信託の目的などを決定・共有した上で、司法書士に家族信託の依頼を行います。
家族信託契約書文案を作成
次に、家族信託に関して家族間で取り決めた内容を、「家族信託契約書」という文書にまとめていきます。
その際、内容に漏れやあいまいな部分がないか確認しながら、司法書士と一緒に文安を作ります。のちに論争に発展しないよう、疑問点はこの段階ですべて解消し、具体的な文言を用いましょう。
最終的な文書が出来上がったら、公証役場に持参して提出し、公正証書化します。
財産の名義を変更する
契約書が整ったら、預貯金や不動産など、親が所有している財産の名義を、子の名義に変更します。
財産の種類によって、名義変更の手続きは異なります。例えば、法務省での申請が必要な不動産登記など、手続きは司法書士が代行します。
また、名義変更を行う信託財産の一覧を、「信託目録」として作成する必要があります。
家族信託専用の口座を作る
次に、信託財産のうち、預金や現金を管理するための口座を開設します。親から信託された財産は、受託者である自分(子)の財産とはならないので、分けて管理する必要があるためです。
現在、家族信託口口座に対応できる金融機関は限られています。対応可能な金融機関が地域にない場合は、司法書士に相談した上で、受託者個人の名義で家族信託専用の普通口座を開設することになります。
家族信託を頼むときのポイント
専門家に家族信託を依頼する際、これから紹介するポイントを押さえておけば、家族信託がよりスムーズに運びます。
家族信託に関する知識・経験が豊富か
家族信託は比較的新しい制度のため、たとえ司法書士でも、これまで受けた経験が少ない専門家もいます。そのため、家族信託に詳しく経験豊富な専門家を探すのが、スムーズに手続きを進める上での第一ステップです。
どの専門家に家族信託を依頼したらよいかを判断するために、例えば先述の家族信託口口座はどの金融機関なら開設できるかなどを質問して、知識や経験度合いを見定めるとよいでしょう。
他の士業とのつながりがあるか
家族信託に対応するには、法務や保険、税金、不動産登記など、さまざまな分野での知識・経験が必要です。弁護士に依頼する場合は、家族信託や相続に関わるすべてを任せられますが、他の士業では、場合によっては対応できない事柄もあります。
依頼を検討している専門家が、他の士業との連携やつながりを持っているかどうかを確認しましょう。
例えば、裁判になったら弁護士、不動産登記をするなら司法書士、相続税への対応なら税理士と、士業の種類ごとにそれぞれ力を発揮できる専門分野が異なります。自分ではカバーできない分野でも、独自のネットワークがあれば、他者の力を借りながら、家族信託の手続きを適切に進められます。
アフターフォローをしてくれるか
家族信託は、開始後も事情によっては細かな契約の見直しが必要になる場合があります。
例えば、信託財産に不動産が含まれる場合、信託期間満了後は受託者に所有権が移り、その際に新たな登記手続きが必要です。
たとえ些細な変更内容であっても相談が可能かどうかを含め、サポート体制がどの程度整っているかも、家族信託を依頼する専門家について、事前に把握しておくべき点です。
アフターフォローをしてくれる専門家なら、契約後も引き続き相談や依頼に応じてくれる点は、大きなメリットです。
まとめ
家族信託は、成年後見制度や遺言などの制度よりも柔軟で、身近な仕組みとして関心が高まっています。まず家族とよく相談して目的を明確した上で、家族信託に関する知識と経験が豊富な専門家に依頼するのが得策です。
家族信託に対応できる弁護士や司法書士、行政書士、税理士であっても、それぞれ得意とする専門分野が異なります。依頼する専門家を選ぶ際は、知識や経験も含め、他の士業との幅広いつながりがあるか、アフターフォローが万全かなどの点も吟味して決めましょう。